彼の肖像

 やや、初めまして。私、実は記者をやっている者です。面白い出来事や、有名な方の話など、記事をいろいろ集めて出しています。これでなかなか評判がいいんですよ。そうそう、酒場や宿屋さんでよく張り出されてるんですが。それで、今回は最近大陸各地の酒場で話題になっているとてつもなくザルなお方を紹介しようと思うんです。事前調査もざっとはしてみました。

 えーっと、名前はサヴィアーさん。学者志望。黒っぽい。…いえ、もちろんこれで終わりじゃありませんって。とりあえず、調査で分かった、彼の関係者の皆様に、インタビューをしようと思ってます。そのあと、ご本人と話ができたらな、と。全員に話が聞けると良いのですが。…それにしても、どこかで見たことがあるような気がするんですよね。このサヴィアーさん。

 おっと、そんなこと言ってるうちにターゲットその一のルナンさん発見。うん、調査で仕入れた特徴のとおり。さて、あまり方言が出ないようにしないと…けっこう各地を転々としてるものですから、変な言葉が出てしまったりするんですよね。あえいうえおあお。生麦生米生卵。庭にはワニにハニワにニワトリ二羽がいる。よし、発声練習完了。では、インタビュー。


もしもし、ちょっとあなたのお知り合いの、サヴィアーさんについて伺いたいんですが。
「え、な、なんで?」
かくかくしかじかです。あ、トマトジュースおごりましょうか。
「…オッケー。何でも聞いて」
けっこうあっさり承諾していただきました。事前調査って偉大です。

ではまず、あなたとサヴィアーさんの関係は?
「うーん、仲間、かな。なんだかんだ言って、いろいろ迷惑かけちゃってるのよね。かけられてもいるけど」
それでは、彼のことをどう思われます?
「服装も言動もかなり怪しいけど、面白い人よ」
…それはほめ言葉でしょうか。えー、彼はかなりの酒豪ということですが。
「それはもう。あれにはちょっとついていけないわ…ついていってる人もいるけどね」
ほほう、それは興味深い。
「そうなの?…あ、ディザだ」
ん?ということは、ターゲットその二の方。彼がその、ついていってる人ですか?
「ううん全然。彼の妹がそうなのよ」
えっ、そうなんですか。ありがとうございました。では続いてディザさんに質問させていただきますね。
「どーぞどーぞ」


さて、インタビュー第二段いってみましょう。
「…は?何だって?」
ですからインタビューですって。ルナンさんによると、ディザさんはサヴィアーさんとは対照的ということですが。
「ああまあ…正反対っていえば、そうかもな。いろいろと」
具体的には?
「あれでやつは、かなり頭が回るみたいだしな。学者志望ってのも伊達じゃないと思うぜ。その代わりに体力は無きに等しいけど」
なるほど。正反対なんですね。髪にかかっている重力も反対かなって勢いですよね。
「あ?なんか言ったか?」
いえ何も。他に何か、彼についてあります?
「そうだな、あの服装はどうかと思うな。どう考えても怪しすぎだ」
そんなに怪しいんですか…直に会って見たいですね。ありがとうございました。えっと、妹さんはどちらにいらっしゃいますか?
「もうすぐこっちに来ると思うけど…なあ、いったいなんだったんだ?」
ま、詳しくはルナンさんから聞いてください。


「ナックですけど。聞きたいことって?」
これこれこういうことなんですよ。サヴィアーさんは、やっぱりお酒に強いんですか?
「うん、強いよ。それにすごく詳しくてね、どれがおいしいか、とかよく教えてもらうんだ。尊敬しちゃうな」
おっと、聞き捨てなりませんよ。やはりこういう記事で一番盛り上がるのは恋愛方面。えー、ナックさん。その尊敬がやがて恋に、なんてことは。
「あはは、絶対無いよー」
…そうですか。残念。
「第一ね、サヴィアーはシンディっていう人が好きなのよ?」
シンディさんですか。…あ、あったあった。関係者にちゃんとリストアップされてます。ということは、この方にはぜひとも話を聞かないと…。しかし恋人がいるとは。事前調査ではもれちゃったのか。
「あ、まだ恋人じゃなくてね。サヴィアーの片思いなの。うまくいくといいんだけど」
どうも、ありがとうございました。あれ、誰かやってきますよ?
「あ、お師匠さまー!」


というわけで、サヴィアーさんについてお伺いしているんですよ。
「なるほどのう。わしで4人目か?」
ええ。皆さん協力してくださってありがたい限りです。では早速。サヴィアーさんについて、どう思われます?
「なかなかに優秀な男だと思うぞい。弁も立つしのう」
あ、いままで聞いた中で一番好意的な気がします。
「ただ、ちょっと気の弱い部分もある気がするな」
や、やっぱり落ちがあるんですか。
「そうやはり、芸人に必要なのは、度胸!」
え?ええ?
「むむ。サヴィアーという名前で何かいい話が思いつきそうじゃな…」
ええええっ?な、なんだかとっても危険な予感。プロとして残念ですが、ここは撤退しかなさそうです。


ふう。逃げ切りました。
「…何やってるの?」
わっ!び、びっくりしました。…も、もしかして、ターゲットその6…じゃなかった、ユミさんでいらっしゃいますか?
「そうだけど。なんで知ってるのよ」
いえほらその…かくかくしかじかというわけで。
「ふーん。で、サヴィアーについて調べたの?どんなこと?」
今までの調査は大体こんなところですが。ところでなんで私が質問されてるんでしょうか。
「…なんだ、私も知ってることばかりじゃない。私が知りたいのはね、サヴィアーが『先生』から何を習ったのか、ということなのよ」
はあ。そう言われましても。
「発信機を投げるときになぜかカーブをかけたり、メガネのフレームで牢の鍵を開けたり、グラウンドシップを口八丁で手に入れたり、酒を飲み始めれば全然止まらない、なんてことを習ってたとすれば、そんな事実は消すほか無いでしょ、くくく…」
こ、怖いんですが。だいたい事実を消すってどうやって。
「…抹殺?」
えーと、銃を取り出しながら言われると洒落になりません。逃走!


ふう。再び逃げ切りました。いやー恐ろしかったってうわぁ!
「…何だ突然」
そそそ、そりゃ驚きますって言うか幻のターゲット!じゃなかったサヴィアーさんの恩師!
「……」
ああそんな、むやみやたらと嫌そうな顔をして逃げなくても良いじゃありませんか。サヴィアーさんのことについて調べているんですよっ!
「…あの男か」
ため息をつきながらでもご協力感謝します。五体投地して行く手を阻んだかいがありました。
「役に立ったかと思えばとんでもない失敗をしでかしたりしていたな」
ふむふむ。他には?
「妙なところで器用だった。…私の下にくる前からああだったのだろう。私は教えてはいない」
最後、妙に強調してません?
「気のせいだ」


いやいや、まったくこれほど調査ができるとは思いませんでした。さて、これで最後。シンディさんです。
「…私に何か?」
サヴィアーさんのことについて、皆さんからお聞きしているんです。彼のことを、どう思われますか?
「いい人よ?」


…ああ、千も万もの言葉を尽くしてもひとりの人間を語りきることはできない、それはきっと真実なんでしょうけれど。
同時に、たった一言で充分というのも、また真実ではないかと思うのです。


サヴィアーという人は、つまりこんな人なわけですね。では私、これからサヴィアーさんと直接ちょっとお話をしてみたいと思います。それから記事作成に取り掛かることになるでしょう。もし酒場や宿屋の片隅で見かけたら、少しでもいいので気に留めてくださいな。


「あれ?もしかして、バビロスキーさん?」
「あ、あなたは…?!あなたがサヴィアーさんだったんですか!」
大陸各地でその記事が読めるようになるのは…まだ少し、先の話である。





END

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