47:ゆめのなか

 クリスマスイブ。もう少しで明日を迎えるという、普段ならば人通りの少なくなる時間になっても、今日だけは別だ。表通りにも裏通りにも、あちこちに明かりが掲げられている。道の脇には料理や飲み物が並べられ、町中が宴会状態である。子供やお年寄りでさえ今日はまだ眠らない。いつもの夜とは違う騒々しい街を、ルナンたちは歩いていた。
「本当に賑やかだな」
「今年はいつも以上よ」
 驚き半分あきれ半分といった様子でディザが言うので、ルナンは答える。エターナルからの解放という大きな出来事があったからなのか、街の浮かれ具合は異常といってもいいほどだ。ガゼールは祭りを楽しむどころではなく、あちらこちらで起こる騒動の後始末に飛び回っている。
「いいのか?こんなんで」
「まあ、今夜限りだから」
 いいんじゃない?とルナンは言った。おそらく明日になれば、大人たちは二日酔いに悩みながら年越しの準備に精を出し始めるだろう。クリスマス当日を楽しみにするのは基本的に子供たちだ。サンタクロースが何を持ってきてくれたのか、わくわくしながら目を覚ます。ルナンたちにとって、それは多少昔のことになってしまった。
「ねえ、サンタクロースっていつまで信じてた?」
「さあ、どうだったっけな」
「お兄ちゃんは、私といっしょぐらいだよね!」
と、道の脇に並んだテーブルで、サヴィアーらと仲良くすごいペースで酒瓶を空にしていたナックが口をはさんだ。
「そうなの?」
「うん、同じくらいの歳にばらされたから」
父さんと母さんに、とちょっとさびしげな笑顔でナックが言う。
「そうか、そうだったよな」
「そっか……それまでずっと信じてたんだ?」
「そうだよ」
 少し照れくさそうにしてディザが答えた。大体あの二人はだますのがうまいんだ、とぼそぼそと言い訳を付け加え、ルナンに聞き返した。
「で、お前は?」
「うーん、2、3年くらい?」
そう返すとディザは一瞬目をきょとんとさせて、「そうか」と短く言った。
「うん、でも……今でも、信じてる」


 戦うために生きていた日々。
 望みなんて何もない。
 願うことも出来やしない。
 時折ふれるやさしさだけが、頼りだった毎日。
 それを思えば、今は。


 人々がざわざわとし始めた。そろそろ花火が上がる――明日になる瞬間が訪れる。
「サンタクロースって、いると思うのよ」
怪訝な顔をしてこちらを見返すディザに、ルナンは続ける。
「クリスマスって限らなくても、願いをかなえてくれる誰かが」
 自分がここにいる毎日が、それ自体が奇跡のようなものだから。
「いてもいいかもしれないって、思う」
「そうか?」
「うん。私は、そう思う」
そうルナンが言うと、ディザは少し笑って、言った。
「おれは、願いは自分でかなえるものだと思うぜ」
「うん、それもそうなんだけど!でもさ、小さい子は、出来ないじゃない」
 サンタクロースがかなえてくれるのは、小さな子供の願い。
「だから、自分で願いをかなえられなかったり、願うことも出来ないような子供がいたら……サンタクロースが、手助けしてくれるのかもしれない」
「なるほどなー」
「そうならいいと、思うんだけど」
「ま、もしいたとしてもさ」
まっすぐな目で、ディザは断言する。
「もうおれたちは、頼れないよな」


 あの日、描くことすら出来なかったゆめのなかに、私は今、立っている。
 奇跡のようなその事実があるから。
 サンタクロースがいるかもしれない、そう思うのです。
 もう、頼ることは出来ないけれど。


 大きな音が上がると同時に、大きな歓声もあがる。花火が始まった。
「すっごい……」
「お、星型!」
「わ、ハート型?」
「すげー!」
次々と空に描かれる壮大な絵に、歓声を上げる。あ、とルナンはひとつ思い出した。
「ディザ」
「ん?」
笑顔で、告げる。花火が上がったということは、日付が変わったということ。
「メリークリスマス!」


 今日はクリスマス。願わくば、夢のように幸せなときを。


No.47: I'm in the dream.

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