46:炎

 12月22日。ルセイヌはもはやお祭り気分といってもよい。レイシスとヒロははしゃいで街へと出かけていった。クリスマスの買い物らしい。
「よくやるよ」
アルヤはルセイヌ城でのんびりとしている。どこか若さにかけるこの青年は、暖炉のそばで暖まっていた。ぱちぱちとはぜる炎をじっと見る。こんなにゆっくりとクリスマスを祝うのは、彼にとっては久しぶりのことだった。
「あ、アルヤちょっと来てくれる?」
と、のんびりには程遠い彼女がアルヤに頼んだ。
「ルーシー。何かあったのか?」
「いや、ちょっと」
手招きをするルーシーのほうへ歩いていくと、アルヤはかなり大きな、本格的なもみの木に出迎えられた。
「これは……?」
「よかったら、どうぞって」
「……誰が?」
「近所の人」
城の近所の人、という形容もなんだか変な気がする。どういった反応をすればいいものやら、と考えているところに大きな箱が渡された。
「飾り付け、お願いね♪」
にっこりちゃっかり言う彼女に向かって、アルヤはあきらめたようにため息をつく。
「ルーシー、人使うのうまくなったね……」
「レイシスに教えられたの。じゃ、私今からちょっとマフラーに専念するから!」
「……それもどうかなあ」
つぶやいた言葉は聞き流された。確かに最近のルーシーは働きすぎだったので、仕事を休んで自分のことに集中するのはいい傾向なのだが。
「これ、ひとりでやるのか」
箱の中には多種多様な飾り。能天気に微笑むサンタの人形が、筋違いだが恨めしくなった。


 しかし、面倒に思えた作業もはじめてみると意外にはまった、なんてことはざらにある。
(意外と楽しい……かも)
 何しろクリスマスツリーを飾るなど、本当に久しぶりのことなのだ。旅を続けているとそんな機会はない。過去数年のクリスマスは危うく凍死しかけたり、雪の降るなか魔法でつけた焚き火で何とか暖を取ったり、ましな年でも隙間風の吹き込むような安宿の中だった、なんてもので。それに比べると天と地の差である。
 暖炉のそばで、ぬくぬくと飾りつけ。
「……あー、あったかい」
「あったかい、じゃないよ!」
「お、ヒロ。戻ってきたのか」
「ていうか寒い、寒いよもう〜」
 帰ってきたとたんにぎゃあぎゃあとヒロが騒ぎ立てる。確かに外は寒かったかもしれないが、暖炉のそばに来てまで寒い寒いというのはどうだろう。
「お前、雪国出身だろ」
「寒いものは寒いんだって。……これ、薪追加してもいいかな」
本気でいっているらしいヒロに眉をひそめる。
「やめとけ、節約しろってこないだルーシーに怒られたばっかりだろ」
「うう……ね、それにしてもアルヤ、何やってんの」
「見てわからないか?」
「わかるけどわかりたくないっていうか」
 ちなみに現在アルヤは綿をツリーのあちこちに散らしている。
「綿でいかに雪を美しく表現するかについて考察中だ」
「似合わないよ」
「うるさいな、ルーシーに頼まれたんだよ」
 実際のところは、特に何も考えずに綿をちぎっては置いている。
「アルヤ、ひとつ言ってもいい?」
「何だ?」
「暖炉がわには飾りがいっぱいついてるけど、ツリーの裏側飾ってないよ」
 ツリーは暖炉の左脇においてある。そしてアルヤは暖炉の正面に座り込んで飾りをつけていた。つまり暖炉に向かって右側だけは飾りがたくさん、左側は皆無という状態である。暖炉のそばを離れなかったのが一目瞭然。
「……そういえばそうだな」
「気づいてなかったの?!」
「じゃ、ヒロよろしく」
ぽん、と箱を渡す。ヒロはすぐには反応を返せず、呆然と箱の中を見た。
「……いや、アルヤが頼まれたんだから、アルヤがしなよー!」
「いやいや気づいた人がやるのが適材適所というもんだろ」
「あーもー!」
と、叫びながらもヒロはツリーの反対側に回った。ちょっとやりたかったらしい。
「まあ、ツリーを回転させればいいんだけどな」
ぼそ、とつぶやくとヒロは持っていた丸い飾りをぼとりと落とした。てんてんと床を転がっていく。
「あーるーやー……」
「あーあったかい」
「……もういい」


(飽きないやつだなー)
 口をとんがらせてぶーたれながらも、飾り付けを続けるヒロを見てアルヤはこっそり笑う。傍らの暖炉の炎はあくまでやさしく暖かい。ヒロたちに会うまで、アルヤにとっての炎といえば、ただ暖めてくれる暖炉の炎なんてものではなかった。
 復讐や、憎悪という、業火。暖めるどころではなく、見を焦がし尽くしてしまうような炎が心の中で燃えていた。どんなに燃え盛っても、寒さを癒してはくれない炎が。
 今そばにあるのは、ただ暖かい暖炉の炎。
「あー……ほんとにあったかい」
「うるさい!」
 怒って言ってきたヒロを見て、今度は隠すことなく笑う。お前のおかげであったまってるといったら、もっと怒るだろうか。実は本音でもあるんだけど。
「もー、早く飾り付け終わらせてやる……って、なんで短冊セットなんかはいってんの?!」
「サンタさんに願い事でも書くか」
「間違ってる、絶対間違ってる……」


 クリスマスまであと3日。部屋を暖め、おしゃべりでもどうでしょう。


No.46: the fire.

Xmas series  50  Novel  >HOME



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送