34:親子

 クレスフィールドの町は普段とは装いを変え、クリスマスカラーに染まっている。赤と緑に飾られた街を、うれしそうに見渡している人物が、ひとり。議長その人である。彼に向かって、せっせと家の木を飾り付けていた主婦が話し掛ける。
「ガゼールさん、ここの飾りどうです?」
「あ、いいと思いますよ」
 主婦=話し好き。というわけでもないが、どこにでもマシンガントークを誇るおばちゃんはいるものである。彼女はクリスマスの飾りをきっかけに、これ幸いと議長と話しこんだ。
 もともと、お祝い事には力を入れるクレスフィールドだが、クリスマスは特に華やかだ。それは昔からというわけではなく、ある年を境になのだが……。
「ね、クリスマスにはルナンちゃんも、帰ってくるんでしょう?」
「もう明日には着くそうです」
 一目で嬉しそうとわかるような笑顔で、ガゼールが答える。今年、エターナルの襲来をきっかけに、様々な成長を遂げた彼の娘は、それでも彼の娘なのだ。
「クレスフィールドに落ち着いていればいいのにね、ルナンちゃんも」
「まあ、大陸中を駆け回っているのがあの子らしいですからね」
「それもそうだけどね……」
「クリスマスには帰ってきてくれると言うんだから、私はうれしいですよ」
「そう?まあねえ、ガゼールさんがそういうんならいいんだけど」
話はまだつきそうにない。ガゼールは内心こっそり、どう話を区切ろうかと思い始めた。


 ルナンがガゼールと初めて出会った年、ルナンが質問した。
「ねえ父さん、クリスマスって何なの?」
本を読んでいて彼女はその不思議な言葉を見つけたという。ガゼールは言葉につまった。
「……そうだな、もうすぐわかるよ」
 クリスマス。その起源は確か千年どころではない昔にあるはずだった、とガゼールは思い起こす。ルナンは記憶を消したとはいえ、言葉や常識まで消してしまったわけではない。しかし、ルナンはクリスマスを知らない。
(クリスマスを知るような境遇になかったのか、こんな子どもが)
そのことに思い当たり、ガゼールは思わず言葉を失った。そして、ある決意をしたのだ。


 その年のクリスマス、クレスフィールドは今までにないほど盛大なお祝いをした。赤と緑と、そしてタイミングよく舞い降りた雪の白に彩られたクレスフィールドに、ルナンは大喜びしたものである。ガゼールが初めての、そしておそらく一度きりの職権濫用をした年だ。もちろん町民も皆うれしそうにしていたので、町のためともなったのだが。
 それ以降、クレスフィールドのクリスマスは盛大なものになった。誰も知らないことではあるが、もとはといえばルナンのためのお祝いだったのだ。クリスマスを知らなかった子どもに、それを取り返すぐらい楽しめるように、と。


 何とか会話を切り上げて、ガゼールはまた町の見回りをはじめた。あちこちからのあいさつに答えながら町を歩く。と、うしろから久しぶりの声が投げかけられた。
「父さん!」
「ルナン?!」
大きく手を振りながら走ってきた愛娘を見て、ガゼールは驚いた。
「明日になると思ってたんだが」
「うん、ちょっと急いじゃった!」
子どもの時と変わらない笑顔で、ルナンが答えた。あまり答えになってないが。
「いったいどうしたんだい?ディザ君たちは一緒じゃないのか?」
「そうじゃなくてさ、父さん!……ただいま!」
もどかしそうにぶんぶんと手を振る、そんなしぐさもなんだか子どものようだ。久しぶりに会うからかな、と少し笑って、ガゼールはルナンの望む答えを贈る。
「お帰り、ルナン」
声がうれしさに弾んでいることを自覚して、親ばかだなあと内心苦笑した。


 血はつながっていない。育てたのも10歳くらいから。それでも彼らは親子なのだ。
「やっぱり、クレスフィールドが一番好き」
「それはうれしいな」
「それも、クリスマスが一番好き!」
クリスマスがうれしいのは、親も子も一緒。いや、もしかしたら親のほうがうれしいのかもしれない。


 クリスマスまであと5日。どうか楽しいクリスマスを。


No.34: a father and a daughter.

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