23:兵器

 兵器を作り続けて何十年か。エターナルを離れた後、兵器を作るわけにも行かなくなった。今求められているものは兵器なんかではないのだ。しかし、そう簡単に兵器への情熱は捨てられないものであった。
「物騒ですよ、エドさん」
「ふん、若いもんには火薬のロマンがわからんのじゃ」
「いや、それに年齢は関係ないかと」
 ツーリアの工場で、まあ少しは役に立つ部類に入れてもいいかもしれない若者に兵器の魅力を語ったら、そんな会話になってしまった。兵器。物騒かもしれない。だが、エドの目的は兵器を作ること、それだけである。別に兵器を使って何かことを起こそうなどとは考えていない。悪用されるのもまっぴらだ。
「でも、使ってはみたいんですよね」
「兵器は使ってなんぼじゃ。この爆弾の曲線のフォルムが、色艶が……なんていわれても困るじゃろうが」
「そりゃ困りますけど」
「そうじゃろ?」
と同意を求めてみたが、青年はあまり良い顔をしなかった。全く、何でわからないのだろうか。


 だからといって「いかに想定した範囲で爆発を収めるか」だの「美しい爆発の仕方」だのを語られるのも同じくらい困る、と未来ある青年は思っていた。しかしエドは彼には関係なくしゃべり続ける。
「ええじゃないか、老後の楽しみじゃ」
「もう少し安全な楽しみを見つけてください!人に向けたりしたら大変なんですから!」
「……おお!」
「は?」
 エドは目を輝かせた。いいことを思いついた。その目の輝きだけをみれば少年とも思えるような、そんなきらきらした嬉しそうな顔でエドが言う。
「ひらめいた、ひらめいたぞ!」
「ひらめいちゃったよ」
青年はぼやいたが、エドがそんなことで止まるわけはない。伊達に長く生きてはいないのだ。
「ふっふっふ、見ておれ」
「……頼みますから、危険なことだけはしないでくださいよー?」
「任せておけ!」
 腕まくりをしてずんずんと工場の奥に歩いていく。青年らがある日工場に来てみると、突然出来ていた研究室。エドはそこへ入っていった。
「大丈夫かなあ……」
 ひとり不安に思う青年。彼をなぐさめてくれるものは誰もいなかった。


 エドの評判はけして悪いわけじゃない。むしろ、かなり良いといってもいい。その頭脳でもって、次々と便利な発明品を生み出し、ツーリアをはじめ各地で人気者である。しかし工場でそこそこ高い地位にいる――つまり、エドと近しいものはもう少し違った感情を持っている。
「あの人、もうちょっと普通の感覚してたらなあ……」
 天才となんたらは紙一重。エドはどちらの性質も持っている。しかし年を食っているせいか、世渡りが意外にうまい。多くの人々は「なんたら」の部分を知らず、ちょっとお茶目だがものすごく頭のいいおじいさん、という認識をしているらしい。エターナルの中心にいたとはいえ、エドが表舞台に出てくることはほとんどなかった。エターナルの幹部というイメージは、かなり薄いといっていいだろう。狸爺もいいところである。


 ばたばたばた、とエドが研究室から走り出てきた。青年の目には爆弾にしか見えないものをかかえて。
「完成じゃあぁぁ!」
「結局爆弾じゃないですか!」
思わず叫ぶと、エドはにやりと笑った。
「ふふん、まあ凡人にはわかるまいて」
 ああなんていうかこの胸に浮かんだこの感情は殺意というものだろうか。青年はぼんやりと思った。
「いっとくが、本当に爆弾じゃないぞ」
「じゃあ、なんなんですか……」
 疲れた声で問う。このじいさんと話しているとなんだかこっちがエネルギーを吸い取られていくみたいだ、と思いながら。
「これはのー……」
 嬉々として話すエド。最初は仏頂面だった青年は、話を聞くうちにだんだん目を見開いて、最後には感嘆していた。
「まあ、ちと高価になるが。町でなら、買いたいというところもあるだろうて」
と、狸爺がまたにやりと笑う。
「エドさんて……」
「天才じゃろ?」
「自分でいわないでください」
否定はせずに、ただ苦笑してエドを見る。食えない笑みを浮かべた彼に、かなわないなと白旗を揚げた。


 12月21日。クリスマスが迫ったその日も、工場は働き、各地へツーリア産のさまざまな品物を送り出す。
「いやー、まさか打ち上げ花火を作るとはね」
「クリスマスのために、っつって意外といろんな町が買ってくれたしな」
「ほいそこ、手がとまっとるぞい」
「「ういーっす」」
現在ツーリアの工場は、人を害する兵器ではなく、人を楽しませる花火を作っている。


 クリスマスまであと4日。ツーリア産打ち上げ花火、好評発売中!


No.23: a weapon maker.

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