Dream of dreams 時は・・・流れ始めた。 私の意識があるにもかかわらず。 私の名はアージェ、時を戻すもの。 目覚めたときから時間は逆行していく、そのはずだったのに。 時を戻したいという、「彼」の願いに目を覚ました。けれども彼は「彼女」に倒され、時を戻しかけていた私も、彼女との戦いで力を失った。いや、実のところはほとんど消し飛ばされていたのだ。今私の意識があるのは、保存装置の修復機能によるものである。よどんだ時の中での彼女の力はすさまじいものだったが、今の世界にはなんら影響を与えていない。保存装置は以前と変わらず機能している。あの戦いで失われたのは、私の力と彼女の肉体だけだった。 彼女は肉体を保持する力まで、攻撃に使ってしまった。生きているが、身体はない。今は精神をどこかに飛ばしているようだが、身体を構成していた元素は今でもここに存在しているのだろう。見えないのだから、確かめようもないが。 私は力を失った。保存装置は私を修復しているが、もともと保存のための装置である。そのうちエネルギーを使い果たすだろう。今の私に世界の時を戻すような力はない。こぼれたミルクを戻すくらいなら、できるだろうが。 保存装置のエネルギーが切れてしまったら、私はそのまま滅びてしまうだろう。たとえエネルギーが無尽蔵であっても、もはや私の力を欲するものなど現れまい。誰かの願いをかなえることも、何かを残すことも、私にはすぎた望みだったようだ。消えてしまう前にせめて何か、私が存在した証をこの世に残したかったのだが・・・。 そのとき、強い願いの声が聞こえた。 ――私は、みんなのところに戻りたい!―― ・・・その願いなら、叶えられる! - - - 強く願ったその瞬間、私の意識はイリーディアの最深部に戻っていた。 「眩し・・・」 声を出して、目をつぶって、そして、気がついた。 「体が、元に戻ってる?」 「うまくいったようだな」 これは・・・まさか。 「もしかして、アージェ?」 「その通りだ、クレスティーユよ」 「うまくいったって・・・それじゃ、あなたが身体をもどしてくれたの?」 「そう・・・大陸全土や、精神面に働きかけることはもはやできないが・・・人間ひとりの肉体くらいなら・・・。皮肉なものだな、力を失ったことが好都合に働くとは」 「なぜ私を助けたの?・・・その前に、あなた、無事だったの?」 聞いてから、気づいた。無事だったはずはない。時はきちんと流れているのだから。 「無事だったとは言い難いな・・・。その上、残っていた力も、使い果たした。もう長くはもつまい」 ・・・私を助けるために。 「そう、似ているな、クレスティーユ・・・あなたがやったことと。私の場合は復活できないが・・・」 「そこまでして、どうして私を助けたの」 私は彼を消し飛ばそうとしたのに。 「願いをかなえるため」 「・・・私の願いを?」 「私の願いでもある・・・。ずっと、誰かの願いに応えたいと思っていたのだから」 壁にともっている光が、消え始めた。きっとそれと一緒に、アージェの命も消えてしまう。 「あなたは私の生きた証・・・どうか幸せに、クレスティーユ・・・いや、ルナン、だったか?」 「そうよ、私はルナン」 声がかすれる。やっと彼のことがわかるような気がした、その直後にお別れなんて。結局私は、アージェを2回も殺してしまう。後悔をしているわけじゃないけど。・・・だけど、せめてひと言だけ。 「ありがとう、アージェ」 「・・・その言葉が、聞きたかった・・・」 それとほとんど同時に、保存装置の周りの全ての明かりが、消えた。 「さよなら」 もし生まれ変わったら、今度は普通の人間に。 そう願って私は、もう誰もいなくなったイリーディアの最深部から歩き出した。 幸せにというアージェの願いと、皆のところへ戻るという、私の願いをかなえるために。 - - - 「それで、それからどうしたんですか?」 「あとは、前も話したことがあるでしょ?あの場所で、皆と再会したの」 「中央山脈の・・・?」 「そう。イリーディアをひとりで抜けるのは大変だったけど、逃げたり魔法ぶっ放したりして、何とかね」 「ぶっぱな・・・」 「皆は、とりあえず最後に私がいた場所に行こうって、イリーディアに向かってたらしいのよ」 「それで、中央山脈で再会したんですか」 「そういうこと。あのときのみんなの顔、今でも覚えてる」 「・・・ディザさんとか?」 「・・・さーって、仕事仕事」 「あぁっ、酷いですセンパイ、そこが一番聞きたいのに!しかも顔赤いです!」 「う、うるさい!あなたは早く、アネートに手紙を届けに行きなさい!」 「・・・はーい、それじゃ行ってきます」 しょうがない、今回は聞けなかったけど、いざとなればナックさんに聞いてもいい。アネートへの手紙を届けたら、道草ついでに再会の場所にも行ってみよう。思い出の場所には、行ってみたい。センパイみたいになるのが、私の夢なんだから。センパイの夢も、アージェさんの夢も、叶っている。 それなら次は、私の番じゃない? - - - END |
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